所長ブログ

2013年6月17日 月曜日

[書評]井筒俊彦 イスラーム文化 その根柢にあるもの(岩波文庫)

一冊、書評をしたいと思います。(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

近年、日本とイスラーム教の国々との関係は、良い意味でも悪い意味でも大きくなっていると思う。核開発疑惑のイランや、内戦中のシリアもイスラーム教の国であるが、日本の近くにもマレーシアやインドネシアといったイスラーム教を信仰する者の多い国が存在し、それらの国々との関係は、これからますます大きくなっていくのではないかと思う。しかしながら、日本では、イスラーム教について知られてきたとは言い難い。そこで、イスラーム教について基本的な知識を得るため、『コーラン』の翻訳で知られ、イスラーム学者、東洋思想研究者などとして、多数の業績を残した慶応義塾大学名誉教授である著者の講演を元にした、本書を読むことにした。

当職にとって、イスラーム教との出合いは、いかなる偶然か分からないが、ドイツのGoethe-Institutであった。ここは、ドイツ外務省の外郭団体でドイツ語に関しては国際的に権威のある語学学校であるが、ここに短期留学した際に、同じクラスにサウジアラビアから来ていた女の子がいた。彼女は、昼休みには、毎日、お祈りをしており、お祈りしているときは、クラスメートたちとそっと席を外したものである。

日本では、無神論者が多数いるし、また、仏教徒と言いながら、クリスマスとはしゃいでいる人間が多数いることからも明らかなように、宗教の影響力はあまりないが、イスラーム教を信じる者のイスラーム教の大きさを見た気がした。

本書によると、「現世的生活を神の意志に従って正しく建設していく道として、政治が即ち宗教でもある」(141頁)ことから、イスラム教スンニー派では、聖俗の区別はなく、また、イスラーム教の聖典『コーラン』から生まれた「イスラーム法は、第一義的には人間の、というより共同体のモラル、つまり人間をその社会性において規制する社会生活の規範体系」(158頁)であるから、イスラーム教の国では、イスラーム教が占める割合は非常に大きい。そして、考え方に大きな影響を与えているから、イスラーム教を理解することなしに、イスラーム教の国々の人々との交流が深まることになれば、大きなトラブルを引き起こすことになるに違いない。イスラーム教は、中東だけではなく、東南アジアや中央アジア、北アフリカなど、広範な範囲に信者を持つ世界的な宗教であるから、この国際化の時代には、イスラーム教について、一定の知識を持つことは必要なのではないかと思う。

この点、本書は、一般向けの講演を土台に書かれたものであるから、読みやすく、また、厚さも200頁強と比較的薄い本であるので、一気に読め、イスラーム教における『コーラン』の位置づけや、スンニー派とシーア派、イスラーム神秘主義のイデオロギーの違いがどこから出てくるのかなどの、イスラーム教に関する基本的な内容が分かる便利な書物といえよう。

イスラーム教の原点は、間違いなく『コーラン』であるが、これは岩波文庫で3分冊になっており、すべてあわせれば1000頁に及ぶ書物であるから、そう簡単に読むわけにはいかないし、また、外国の文化の下で生まれた書物であるから、基礎知識がなければ、そもそも読みようがないという面があり、読んでも訳が分からなくなる危険性が高いので、『コーラン』を読む前に本書を読んでおくのも有益だろう。

外国人法律問題では、ある程度、バックグラウンドとなっているご依頼者様の文化を知っておく必要性を感じます。もちろん、すべての内容を押さえておくことなどは、到底できませんが、多くの方に共通しそうな部分はきちんと押さえておきたいと思います。東京・池袋所在の 林浩靖法律事務所 では、法律に限らず、その他の周辺の基礎知識についてもブラッシュアップを怠らず、皆様に満足していただける法的サービスを提供する所存ですので、外国人法律問題に関する事件に限らず、お困りのことがございましたら、ぜひ、ご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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