所長ブログ

2013年10月25日 金曜日

[書評]田中亘編著 数字でわかる会社法(有斐閣)

久しぶりに1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「数字でわかる会社法」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

会社法は、実務に出て、たくさんの経験を積む機会があるとよく分かるようになるのだが、「会社法の問題は、往々にして、多数の当事者の利害が複雑に絡み合うため、文章だけで利害状況を分析しようとしても容易でないことが多い」(2頁)という面があり、当職も、受験生のときには、何が言いたいのかよく分からないという部分や、しっくりこないという面が多く残る法律であった。

そこで、本書では、「利害関係を明確化」(1頁)することを目的として、数字を用いて議論すること、及び、規範的な議論をするために、「効率性という基準」(9頁)を取り入れることを提案し、それを、株式価値の算定や制度の存在理由を考える上で、活かそうということが試みられている。会社法は、そもそも、営利社団法人である会社を規律するための法律であり、「営利」を目的にするということは、かみ砕いていえば、金儲けのためということですから、「効率性」は少なくとも、会社法の問題について、判断する一つの基準にはなるだろう。

そして、会社法に隣接する学問である「経済学(特にファイナンス理論、統計学、会計学(簿記)」(11頁)は、いずれも、数字を用いて議論している学問であるから、会社法においても、数字を用いて分析することは有益であると思う。少なくとも、会社法の基本的な制度の存在理由として、一つの説明が試みられている本であることは間違いない。また、簿記や統計学などの基本的なことを、一通り説明している点も、学生向けには有益であろう(ただ、統計学については、「第10章 実証分析入門」で説明されているが、これだけで理解するのは厳しく、統計学や計量経済学の入門書を別途読まないと、理解できないと思う。当職は、大学時代に統計学の講義を受けたことがあるが、それでも、本書の第10章の内容を理解するのは厳しかった。)。ただ、第10章も、「実証分析によって検証できる関係は、基本的に相関関係」(256頁)であって、因果関係ではないことをきちんと指摘し、また、「実証分析といえども相当に主観的な部分がある」(278頁)という点もきちんと指摘し、数字による分析にも限界があることまで、きちんと指摘しているので、その意味で、有益ではあると思う。

会社法の理解には、経済学(特にファイナンス理論、統計学、会計学(簿記)といった、数字を使う分野のほか、商業登記法や金融商品取引法といった隣接する法分野についても押さえる必要があるが、数字を使う分野については、良くまとまっており、会社法の中で、通常の基本書を読んでも、あいまいなまま残っていしまう部分について、一つの説明をしている点で、有益な本の一つとは思う。

会社法の基本的な書籍を一冊読んだ方に、ぜひ読んでほしい書籍である。

林浩靖法律事務所は、会社法に関する業務を、多数取り扱っており、隣接分野の情報収集も常に行っておりますので、必ず、ご満足いただけるサービスをご提供しています。何か、お困りごとがございましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談下さい。

弁護士 林 浩靖



投稿者 林浩靖法律事務所

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