所長ブログ
2014年7月 8日 火曜日
[書評]星野英一・梁慧星 監修/田中信行・渠涛 編集 中国物権法を考える(商事法務)
1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「中国物権法を考える」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。この本は、2007年に開催されたシンポジウムの報告を基にした報告書であり、中国の物権法の起草に参加した学者の報告とそれに対する日本の民法学者のコメントで構成されている。
社会主義的市場経済体制を採用する中国の物権法は、かなりの注目を集めたので、中国関係の法務を取り扱う実務家の注目も高かったが、当職が本書を手に取ったのは、全く異なる動機で、日本法を相対化するヒントを手に入れたいというものであった。弁護士は当たり前であるが、普段から法律を用いて仕事をしているから、当然、法的な知識は増えていくことになる。しかしながら、逆に、知識が増えすぎて思考が硬直化しかねない面もある。そのようなときに外国法に触れるのは、違うルールであるので、考えた方を相対化できるように思われる。
例えば、日本では、用益物権はあまり使われていないと言って良いだろう。土地を収益したければ、所有権を取得するのがベストであり、そうでなければ、賃借権が用いられることが多い。しかし、中国の場合、個人の土地所有権は認められていないから、「中国の経済体制改革の過程は、用益物権が絶え間なく形作られ、豊富になり完備される過程」(124頁)となる訳である。
このような、違いを考えるのは頭の体操としてよいし、本書は、中国物権法の全体を取り扱っているから、全体像をとらえるのにも有用と思う。
中国関係の法務を取り扱っているわけではない当職にとって、実用的な書物ではないが、興味深い書物ではあった。また、日本の物権法の理解をさらに深めるという意味でもよかったと思う。
所有権をめぐる紛争は多く、林浩靖法律事務所でも取り扱っています。何か、お困りごとがございましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談下さい。
弁護士 林 浩靖
投稿者 林浩靖法律事務所