所長ブログ

2015年7月 8日 水曜日

[書評]東郷和彦 北方領土交渉秘録-失われた五度の機会(新潮社)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは「北方領土交渉秘録-失われた五度の機会」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、元外務省欧亜局長であり、対ソ、対ロ外交の最前線に立っていた人物である。鈴木宗男事件との関係で、外務省を離れ、京都産業大学法学部教授に就任している。その東郷元局長の外交官時代の回想録であり、特に、ソ連にゴルバチョフ書記長が登場した後、森内閣退陣までの間にあった北方領土の返還を実現する「五度の機会」についての回想録である。

「ソ連邦崩壊からロシア連邦の形成にいたる歴史の激動の中で、日ロ領土交渉の突破口が開き得るかも知れない千載一遇の窓が開かれた」(173頁)時代に、なぜ、日本は北方領土を回復することが出来なかったのかを明らかにする書物である。そこには、外交には「幅広く根の深い人間関係」(195頁)の必要性や、交渉術の要諦などが記載されながら、交渉の経緯が綴られている。

特に、日本にとって残念だったのが、橋本龍太郎総理の退陣(参議院選挙の自民党の敗北が理由=国民が原因)と小泉純一郎内閣での外務省内の混乱(政治家・官僚の内部闘争が原因)ということになろう。どちらかがなければ、北方領土の回復は可能だったのではなかろうか。そして、その後は、資源価格の高騰による景気回復やクリミアの併合などのロシアの国力強化と、福島第一原発事故やアベノミクス等の米国追従による売国政策による日本の国力低下で北方領土の回復交渉の機運すら遠のいているように思える。

本書は、北方領土問題や近時の日ロ外交史の基本書といって過言ではないであろう。同時に、優れた回想録でもある。

弁護士という仕事は、依頼者の皆様のために頑張るのは勿論ですが、生じているトラブルは社会情勢が反映される面があります。法律以外の点についても、基礎事項をきちんと学んでおりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、正義を守る法律事務所である東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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