所長ブログ

2015年8月20日 木曜日

[書評]除本理史・渡辺淑彦編著 原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか 福島事故から「人間の復興」、地域再生へ (ミネルヴァ書房)



1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

この本の編著者の一人は、以前書評をした「福島原発事故賠償の研究」(日本評論社)(該当する記事は、こちら)と同じ大阪市立大学大学院経営学研究科の除本理史教授であり、もう一人は、福島県弁護士会に所属する渡辺淑彦弁護士である。そして、本書は、両先生がプロジェクトチームの座長を務める日本環境会議に設置されている2つの会議の成果を基に、「支援や賠償継続の必要性を被害実態に即して明らかにし」て、福島復興「政策改善の方向性を提示する」という目的で執筆されている書物である(はしがきⅰ頁)。そのため、実態調査に基づく復興の現実(被害論)を押さえた上で、政策論を論じている。

本書のように、被害実態を明らかにしたうえで、政策論を展開する書物は、福島原発事故が、広い範囲の地域に放射能汚染を及ぼし、かつ、個々人の状況により、生活再建のために必要なニーズが異なるという中で、非常に有益だと思う。取り上げている問題の範囲も広範にわたっている。ただ、惜しまれるのは、編著者の所属しているプロジェクトチームの実態調査が、川内村を中心に行っている影響であろうが、記述が川内村の状況に偏りすぎていると思われる点である。確かに、一定の地域の定点観測は必要であり、また、旧緊急時避難準備区域は、「福島復興政策」の歪みが集中的に表れていると思われる地域なので、地域の大半が旧緊急時避難準備区域に当たる川内村が定点観測の場所として悪くないことは否定しない。しかし、旧緊急時避難準備区域といっても、地域により差異はあるので、川内村での調査結果を、他の地域でも一定の調査を行って比較しておかないと、政策論の提言として偏りが生じるのではないかと思わざるを得ない。

もっとも、福島復興政策の結果や問題点を広範囲にわたって整理している良書であることは疑いなく、原発事故被災者救済にかかわっている当職のような者には、政策問題を把握するうえで有益な書物であることには疑いないので、本書で得た知識も生かして、これからも原発事故被災者のために頑張りたいと思います。

また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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