所長ブログ
2016年5月16日 月曜日
[書評]佐伯仁志・道垣内弘人 刑法と民法の対話(有斐閣)
1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「刑法と民法の対話」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。
本書の著者は、刑法を専門とする佐伯仁志東京大学教授と民法を専門とする道垣内弘人東京大学教授のお2人である。2001年の著作なので、話がやや古くなっているところもあるが、「民法学と刑法学の交流のきっかけとなることを第一次的な目的」とする対談(はしがきⅰ頁)を基にした著作であり、専門化が進む中でこのような分野横断的な書物は珍しいので、今でも十分に参照する価値のある書物であると考える。
現実の事件処理では、特定の法分野だけを気にして処理をすることはできず、複数の分野に目配りして処理をしなければならないことも多い。そして、「刑法と民法が交錯する法律問題は多々存在するのであり、お互いにお互いを理解しながら、矛盾のない法体系を構築すべきである」(358頁)にもかかわらず、現実には、それぞれの分野だけを考えたとしか思えない文献が多く、実務処理をしようとすると頭を悩ませることが少なくない。「民法と刑法の双方を理解した上で、双方の交錯する問題を検討することは、学界でもまだまだ不足している」(358頁)のである。
本書は、刑法と民法が交錯する問題についての双方の専門家の対談であり、統一的な理解のきっかけになることが記されている。また、それだけでなく、例えば、「検察官を信頼して任せておけばすべてうまくいく、という発想は、多くの事案で実際にもうまくいっていることを否定しませんが、刑法理論のあるべき姿には反しています」(146頁)というような刑法理論の基盤に関する指摘や、「民法の教科書が『犯罪行為に該当するような契約は無効である』というときには、おそらく、国家的法益や社会的法益に対する罪をまず念頭に置き、さらには、個人的法益に対する罪に該当するような行為について、行為者と第三者が契約をするということを考えてきた」(267頁)というような民法の教科書の書かれざる前提を示すなど、民法や刑法に関する知識や視点も含まれている。
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投稿者 林浩靖法律事務所