所長ブログ
2016年7月 1日 金曜日
[書評]厳家祺・高皋 著 辻康吾 監訳 文化大革命十年史(上)(岩波現代文庫)
1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「文化大革命十年史(上)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。
現在の中国の状況を理解する上で、文化大革命についての理解は必須だろう。現在の日本がアジア太平洋戦争の経験とその反省という基礎の上にあるように、現在の中国は文化大革命という経験とその反省の上にある。ただ、最近は、両国とも、反省の色が薄くなり、破綻を招いた状況への回帰が試みられているように思えるところに不安がある。もちろん、中国は好むと好まざるとにかかわらず、日本の近隣の大国の一つであるから、その状況は良くも悪くも無視することはできない。そこで、3巻ものの本書を読むことにした。本書は、天安門事件後亡命した著者両名による、文化大革命の状況を詳細に描くものである。著者は、日本語版序文の中で、「『文化大革命十年史』は、毛沢東と劉少奇、林彪、江青らの関係を中心に描いた」(序文ⅵ頁)と述べているが、上巻である本書は、毛沢東と劉少奇の関係を中心に述べられている。即ち、文化大革命の開始から、当時、中国の国家主席であった劉少奇の失脚・死去までを描いている。
著者は、文化大革命の発生の要因を、4つの点に求めている。要因の「一つはスターリンの死去後、中ソ両国の内外政策に明確な食い違いが生じたこと」(4頁)、「第二の要因は、毛沢東と劉少奇の食い違いが日増しに増大し、この食い違いが毛沢東の最高権力を動揺させる可能性があったこと」(5頁)、「第三の要因は、中国共産党の指導体制と、長い期間に形成された党内闘争の方法とが密接な関係にあること」(5頁)、「第四の要因は、中国大陸の専制制度に、大衆と政権の間の相互関係を調整する民主的なメカニズムが欠如していたこと」(6頁)との4点を挙げている。
文化大革命は、毛沢東が自身の最高権力を維持するため、大衆を利用して行った白色テロというべきものであるが、その「文革は人類史上、ある種の奇観を呈した。憲法と法律を隅へと追いやり、一個人の指示にしたがって完全に管理された社会がいかに展開されていくかを、文革の歴史を通して目の当たりにすることができる。」(序文ⅳ頁)憲法や法律が、その実効性を確保することができていることの重要性を示している。実際、文化大革命の中で、「殴打、家捜しなど人民の声明と財産を損なう運動」(113頁)が生じている。
本書は、中国の権力闘争の激しさと、個人崇拝による独裁の危険性、憲法や法律の重要性を示すものといえる。
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弁護士 林 浩靖
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