所長ブログ

2017年1月18日 水曜日

[書評]奥平康弘 治安維持法小史(岩波現代文庫)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「治安維持法小史」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、憲法をご専門とする東京大学名誉教授であり、2015年に逝去された。本書は、2006年に文庫化されたものの、原著は1977年の出版であるから、当職がまだ赤ん坊の時出版されている。

著者は、「悪法だという評価を確実に成立させるためには、治安維持法とはなんであったのかという、事実の評価にかんする作業を、大いにおこなう必要がある」(はしがきⅴ頁。なお、傍点は省略。)と指摘する。
1925年に制定され、「制定後約三年たった一九二八(昭和三)年に、緊急勅令という明治憲法に独特な法形式により、大きな改正をうけ」(1頁)、1941年に全面改正された治安維持法は、当初は、日本共産党対策の法律として、その「本質が『結社』取締法にあ」った(68頁)治安維持法が、1930年代後半には、「日本共産党およびその周辺の諸組織の弾圧法たる性格を薄めて、別の性格の法へと変質してい」った(192頁)。その歴史的な背景や、京都学連事件、人民戦線事件、企画院事件、横浜事件といった事件を分析し、なぜ治安維持法が悪法であるのかを明らかにする。
これらの事件の教訓といえる、「人権が侵害されるとき、人権擁護の自由も侵害されるということ」(126頁)、「既成事実のまえで判決のもつ『修正』力は意外に小さいものでしかなかった」(234頁)との指摘は、現在でもあたっていると思う。弁護士として、常に意識をしなければならない点であろう。

そして、「戦後の日本社会は、自らの手で治安維持法体制を解体したわけではなく、また。自らの手で人権侵害責任者の裁きをおこなったわけではない」(288頁)との指摘は、今なお重い指摘である。共謀罪が問題になっている今だからこそ、なお重い指摘になっているといえる。内心を処罰することの危険性を感じる必要があるからである。

林浩靖法律事務所は、現行法に限らず、歴史的な教訓も押さえて業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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