所長ブログ

2017年4月19日 水曜日

[書評]川島武宜 新版 所有権法の理論(岩波書店)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「新版 所有権法の理論」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、民法・法社会学が専門の東京大学名誉教授であり、本書は、法律学の古典の1つである。

本書は、「『所有権』として法律的に現象してくるところの近代的所有権について、その規範論理的意味をではなくして、その現実的な社会現象としての構造を分析する」ものである(2頁~3頁)。それは、「西洋-特にフランスとドイツ―の法典の直訳的輸入によって制定されたわが『民法』の財産法は、明治初年の『近代化』政策-特にその一環としての私的所有権制度の導入-に基礎をおくものであるが、そのような民法典と日本の経済的・社会的・政治的・思想的現実との間には大きなずれがあった」(316頁)なかで、資本主義の構造と所有権論を結び付ける分析である。

「所有権の私的性質とは、資本の流通工程においては所有権の商品性、資本の生産工程においては所有権の階級制であった」(311頁)との指摘からも伺われるように、川島名誉教授が、K・マルクスの「資本論」の影響を受けていることは明らかである。むしろ、資本主義の構造分析という点では、現時点では、K・マルクスの「資本論」しか依拠できる書物はないであろう。もちろん、川島名誉教授に革命へのロマンなどない。あくまで、マルクスの資本主義の観察者としての魂と継承しているに過ぎない。

当時の日本は、農村を中心に残る封建制の除去は、重要な課題であった。ただ、現在では、グローバル資本に代表される大資本の暴走の制御を行うために、所有権をどう制御するかという理論が必要となっている。川島名誉教授の基礎理論は、今なお参照されるべき重要な知的遺産であるが、現代社会に即した理論の発展が望まれる。

林浩靖法律事務所では、基礎理論を押さえた業務を行うように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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