所長ブログ

2017年5月 3日 水曜日

[書評]園尾隆司 民事訴訟・執行・破産の近現代史(弘文堂)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「民事訴訟・執行・破産の近現代史」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、元裁判官の弁護士であり、「本書は、法律実務家による法律実務家のための日本近現代民事法制史である。」(はしがきⅰ頁)

「我が国には世界にまれな民事手続が多い。その起源を調べてみると、江戸時代に遡るものと明治期に生まれたものとが複雑に入り混じっている。」(はしがきⅰ頁)例えば、訴状却下において、「訴状自体を返却する運用は、江戸時代の慣習法に基づくものであるため、それを義務づける直接の規定はなく、『訴状却下命令に即時抗告をするときは、抗告状に却下された訴状を添付しなければならない』として裏からそっと注意喚起がされている(民事訴訟法第五七条)」などは、歴史を知らなければわからない話である。

「江戸時代の裁判は、職権主義、判例法主義、難件決済制、一審制、武断的裁判、刑罰を背景にした厳格な手続進行、民刑手続同一の原則という特徴を有しており、職権主義を支える与力・同心の裁判補助態勢も整っていて、職権主義的及び武断的という点において現代的ではないものの、制度としては完成度の高いものであった」(32頁)。そこに、明治維新後、西洋法、特に、ドイツ法・フランス法が移植され、現代の日本法が形成されていった。もっとも、「身についていない規定は空文化するものである。」(219頁)
「明治民事訴訟法以来、法廷での虚偽陳述に対する道徳が弛緩してしまった」(221頁)など、現代の法律実務における問題点、課題も形成されていった。
民事手続の歴史としては、類書の少ない完成度の高い書物といえる。

林浩靖法律事務所では、歴史的な背景もきちんと押さてた業務を行うように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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