所長ブログ

2017年5月24日 水曜日

[書評]ミシェル・ウエルベック(大塚桃訳) 服従(河出書房新社)


先日のフランス大統領選は、中道で無所属のマクロン候補が 極右政党・国民戦線のルペン候補を破り、勝利しました。この機会に、フランスの近未来を描いた小説である「服従」を読んだので、書評をしたいと思います(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

長年、右派と左派の対立のみを軸にしてきたフランス大統領選挙が、初めて、二大政党の候補者が決戦投票に残れなかったのが、今回のフランス大統領選だが、「服従」は、近未来、2022年のフランス大統領選を舞台にしている。決選投票に残るのは、一人は、今回の大統領選でも決選投票に残ったルペン氏で、対立候補としては、イスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベスという人物が登場している。

主人公は、フランスのデカダン派作家であるジョリス=カルル・ユイマンスを研究する知識人で、大学教授と設定されている。恋人は、ユダヤ人のミリアムであるが、彼女は、決選投票前に、イスラエルへ移住する。その理由を両親が「フランスで、ユダヤ人にとって重大なことが起こるだろうと確信しているから」(99頁)と説明しているが、ここには、ヨーロッパにおける反ユダヤ主義の影や、イスラム教徒とユダヤ人の対立が投影されている。

最終的に、恋人と別れた主人公は、イスラム教に改宗するところで終わる。イスラム教政権が出来て、イスラム教に順応していくということだ。本当に、近未来のヨーロッパをイスラム教が席巻するのかは分からないし、普通に考えれば非現実的で、ヨーロッパのイスラムに対する偏見が投影されているとみるべきだろう。ただ、新自由主義・資本主義の欠陥が現れだしており、国家統合という壮大な試みであるEUも、イギリスの離脱など、分解過程に入っていると思われることも事実である。新自由主義・資本主義の矛盾が露呈する中で、社会主義は既に対立軸としての生命を喪失している。新たなスタンダードは、イスラム教なのかもしれない。

当職は、フランス文学についての知識がないため、ジョリス=カルル・ユイマンスをはじめとするフランス文学に関するところは良く分からない。ただ、フランス文学についての知識があれば、かかる面でも楽しめるだろう。

小説であるが、いろいろなことを考えさせられる書物であった。

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弁護士 林 浩靖

投稿者 林浩靖法律事務所

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