所長ブログ

2017年4月26日 水曜日

[書評]厳家祺・高皋 著 辻康吾 監訳 文化大革命十年史(下)(岩波現代文庫)


本書は、以前書評をした上巻(該当する記事は、こちら)、中巻(該当する記事は、こちら)に続く下巻であり、江青ら「四人組」が権力を握った時期から、毛沢東の死、そして、華国鋒が「四人組」を失脚させ、そして、鄧小平が復活する時期を描く。

文化大革命の時代、「公安、検察、司法系統はマヒ状態に陥り、このため人々は『無実の罪を申し立てる所もなければ、事件を訴えるところもない』という事態へと陥った。」(28頁)そして、「憲法にとって最も重要な問題の一つは国家の最高権力の交代はいかなる手続きによるのかを明文化して規定せねばならないこと」(359頁)であるが、「毛沢東の生前、最高権力の交代について明文化された規則はついに制定されたことはな」かった(360頁)。
暴力が支配した時代、司法制度が全く機能しなかった時代のあり様と中国の権力闘争の凄まじさを教えてくれる。

文化大革命も、その開始から50年、収束からも40年が経過し、歴史になろうとしている。しかしながら、日本にとっての太平洋戦争の敗戦、韓国にとっての朝鮮戦争と同じく、中国においては文化大革命の影響は、その反動も含めて、まだ、続いている。その経緯や意味は、今なお押さえておく必要があると思う。

林浩靖法律事務所では、法律に限らず、隣接分野についても常に研鑽を怠らず、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2017年4月19日 水曜日

[書評]川島武宜 新版 所有権法の理論(岩波書店)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「新版 所有権法の理論」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、民法・法社会学が専門の東京大学名誉教授であり、本書は、法律学の古典の1つである。

本書は、「『所有権』として法律的に現象してくるところの近代的所有権について、その規範論理的意味をではなくして、その現実的な社会現象としての構造を分析する」ものである(2頁~3頁)。それは、「西洋-特にフランスとドイツ―の法典の直訳的輸入によって制定されたわが『民法』の財産法は、明治初年の『近代化』政策-特にその一環としての私的所有権制度の導入-に基礎をおくものであるが、そのような民法典と日本の経済的・社会的・政治的・思想的現実との間には大きなずれがあった」(316頁)なかで、資本主義の構造と所有権論を結び付ける分析である。

「所有権の私的性質とは、資本の流通工程においては所有権の商品性、資本の生産工程においては所有権の階級制であった」(311頁)との指摘からも伺われるように、川島名誉教授が、K・マルクスの「資本論」の影響を受けていることは明らかである。むしろ、資本主義の構造分析という点では、現時点では、K・マルクスの「資本論」しか依拠できる書物はないであろう。もちろん、川島名誉教授に革命へのロマンなどない。あくまで、マルクスの資本主義の観察者としての魂と継承しているに過ぎない。

当時の日本は、農村を中心に残る封建制の除去は、重要な課題であった。ただ、現在では、グローバル資本に代表される大資本の暴走の制御を行うために、所有権をどう制御するかという理論が必要となっている。川島名誉教授の基礎理論は、今なお参照されるべき重要な知的遺産であるが、現代社会に即した理論の発展が望まれる。

林浩靖法律事務所では、基礎理論を押さえた業務を行うように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2017年4月12日 水曜日

[書評]丸山真男 「文明論之概略」を読む 中(岩波新書)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「『文明論之概略』を読む 中」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、以前書評をした上巻(該当する記事はこちら)の続きであり、「文明論之概略」の第4章~第7章を扱う。

著者が、「福沢が思想家として優れていると思う点の一つは、その想像力の豊かさです」(287頁)と指摘している通り、福沢諭吉の考え方には、現在でも考えさせられるところがある。
例えば、「制度をいくらよくしても、ものの考え方をかえていかなければダメだというのが、福沢の根本の考え」(244頁)というのは、現在の日本の司法制度にも感じるところがある。例えば、いわゆる人質司法もその一つである。本来、被疑者・被告人の逮捕・勾留は、逃亡や罪証隠滅を防止する手段でしかない。しかしながら、戦前からの考え方が抜けず、自白獲得の手段となっているように思われる。現行刑事訴訟法が施行されて約70年になるが、「考え方」が戦前から変わっていないことも証左だろう。

福沢の思想には、まだまだ学ぶべきところがあると思われる。

林浩靖法律事務所では、幅広い教養を踏まえて業務を行うように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2017年4月 5日 水曜日

[書評]我妻榮(清水誠・川井健補訂)民法案内 6担保物権法下(勁草書房)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「民法案内 6担保物権法下」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、以前1巻(該当する記事はこちら)、5巻(該当する記事はこちら)と13巻(該当する記事はこちら)を書評した民法案内の6巻で、担保物権法の後半部分、抵当権、譲渡担保、仮登記担保を扱っている。

「抵当権は、金融界のいわば寵児であって、ありとあらゆる不動産を目的として、いろいろの内容のものが設定され、活用されている。ところが、民法の規定は、極めて大まかで、問題となる重要な点に関するものが、あまりはっきりした系統もなく、並べてある」(はしがきⅵ頁~ⅶ頁)中で、例えば、「工場抵当法と民法三七〇条の規定の関係」(83頁)を考えるなどして、合理的な解釈論を導くための舞台裏を示してくれる。

林浩靖法律事務所では、新たな問題にも対応できる基本を押さえた十分な法的サービスを提供するように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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