所長ブログ

2017年5月31日 水曜日

[書評]阿川尚之 憲法で読むアメリカ史(全)(ちくま学芸文庫)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「憲法で読むアメリカ史(全)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、慶応大学名誉教授である。

日本国憲法81条の規定する違憲審査制は、その淵源は、米国憲法にある。そして、日本の違憲審査論をリードした芦部信喜東京大学名誉教授は、米国での違憲審査基準の議論を参考に違憲審査基準を体系化した。
しかしながら、「日本の最高裁は長い間違憲判決を下すのに消極的でありつづけた」(67頁)のであり、「ある制度を条文のうえで単に移入しただけでは、なかなかうまく機能しない」(67頁)ところではある。
しかしながら、米国の違憲審査制も、もちろん歴史の中で発展してきたものである。
むしろ、米国は、「建国時と同じ憲法を国の最高法規として掲げてきた」(12頁)のであり、「国のかたちは、大筋において変わっていない。」(12頁)「アメリカはその建国の過程からして、ロイヤーの国であった。」(24頁)

米国は、いまなお超大国の1つであり、好むと好まざるとにかかわらず、その基本的な点は押さえておく必要がある。そして、その米国のかたちを規定してきたのは、建国時から大枠において同じ憲法であり、しかも、日本国憲法は、米国憲法の影響を受けている。米国憲法からみたアメリカ史という本書は、米国を、日本国憲法を理解するために基本的な書物と評価できよう。

林浩靖法律事務所は、憲法に限らず、そのバックグラウンドを押さえて業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2017年5月24日 水曜日

[書評]ミシェル・ウエルベック(大塚桃訳) 服従(河出書房新社)


先日のフランス大統領選は、中道で無所属のマクロン候補が 極右政党・国民戦線のルペン候補を破り、勝利しました。この機会に、フランスの近未来を描いた小説である「服従」を読んだので、書評をしたいと思います(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

長年、右派と左派の対立のみを軸にしてきたフランス大統領選挙が、初めて、二大政党の候補者が決戦投票に残れなかったのが、今回のフランス大統領選だが、「服従」は、近未来、2022年のフランス大統領選を舞台にしている。決選投票に残るのは、一人は、今回の大統領選でも決選投票に残ったルペン氏で、対立候補としては、イスラム同胞党のモアメド・ベン・アッベスという人物が登場している。

主人公は、フランスのデカダン派作家であるジョリス=カルル・ユイマンスを研究する知識人で、大学教授と設定されている。恋人は、ユダヤ人のミリアムであるが、彼女は、決選投票前に、イスラエルへ移住する。その理由を両親が「フランスで、ユダヤ人にとって重大なことが起こるだろうと確信しているから」(99頁)と説明しているが、ここには、ヨーロッパにおける反ユダヤ主義の影や、イスラム教徒とユダヤ人の対立が投影されている。

最終的に、恋人と別れた主人公は、イスラム教に改宗するところで終わる。イスラム教政権が出来て、イスラム教に順応していくということだ。本当に、近未来のヨーロッパをイスラム教が席巻するのかは分からないし、普通に考えれば非現実的で、ヨーロッパのイスラムに対する偏見が投影されているとみるべきだろう。ただ、新自由主義・資本主義の欠陥が現れだしており、国家統合という壮大な試みであるEUも、イギリスの離脱など、分解過程に入っていると思われることも事実である。新自由主義・資本主義の矛盾が露呈する中で、社会主義は既に対立軸としての生命を喪失している。新たなスタンダードは、イスラム教なのかもしれない。

当職は、フランス文学についての知識がないため、ジョリス=カルル・ユイマンスをはじめとするフランス文学に関するところは良く分からない。ただ、フランス文学についての知識があれば、かかる面でも楽しめるだろう。

小説であるが、いろいろなことを考えさせられる書物であった。

林浩靖法律事務所は、法律に限らず、教養を身に着け、社会のためという確固たる信念を持って業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2017年5月17日 水曜日

[書評]田山輝明 物権法[第三版]法律学講義シリーズ(弘文堂)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「物権法」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、民法を専門とする早稲田大学名誉教授である。

本書の特徴は、①「叙述が具体的であり、いわゆる『演習』の要素を含んでいる」(はしがきⅱ頁)、②「現代日本の土地問題を物権法の教科書の中において説こうとしている」(はしがきⅱ頁)が挙げられているが、全体としては、概ね、穏当な内容で、学生向けの教科書である。なお、担保物権法については含まれていない。本文234頁と比較的薄い書物なので、ザッと読むには便利な書物だと思う。

林浩靖法律事務所では、物権法に限らず、常に基本を押さえた業務を行うように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2017年5月10日 水曜日

[書評]藤井剛 詳説政治・経済研究(第3版)(山川出版社)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「詳説政治・経済研究」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、高校生用の学習参考書であるが、その内容は、「政治・経済のほとんどすべての分野・内容を体系的・系統的に網羅」(Ⅰ頁)というものであり、高校教科書を深く掘り下げ、細かい資料が多数紹介されるなど、大学生や社会人が手許において資料集や辞書として用いることも可能なものとなっている。国際政治の、特に、地域的な動きの論述に若干雑な部分はあるものも、憲法・国際法・ミクロ経済学・マクロ経済学などに関する網羅性はかなり高い書物と評価できると思う。
もちろん、高校生用の書物であるから、「一番最初の選挙に行くことが肝心だ」(Ⅳ頁)等の高校生向けのアドバイスもあるが、例えば、「個別の質問の解答では、改憲すべき内容...と改憲すべきでない内容...がはっきりと分かれている」(96頁)など、憲法改正問題を考える上で、社会人にも役立つ視点が提示されたり、価格と需要・供給の関係のグラフ化(257頁)が示されたりするなど、ミクロ経済学の基礎を分かり易く示すなど、大学生・社会人が基礎知識をつけるためにも役立つ書物となっている。

弁護士という仕事は、依頼者の皆様のために頑張るのは勿論ですが、生じているトラブルは社会情勢が反映される面があります。法律以外の点についても、基礎事項をきちんと学んでおりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、正義を守る法律事務所である東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2017年5月 3日 水曜日

[書評]園尾隆司 民事訴訟・執行・破産の近現代史(弘文堂)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「民事訴訟・執行・破産の近現代史」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、元裁判官の弁護士であり、「本書は、法律実務家による法律実務家のための日本近現代民事法制史である。」(はしがきⅰ頁)

「我が国には世界にまれな民事手続が多い。その起源を調べてみると、江戸時代に遡るものと明治期に生まれたものとが複雑に入り混じっている。」(はしがきⅰ頁)例えば、訴状却下において、「訴状自体を返却する運用は、江戸時代の慣習法に基づくものであるため、それを義務づける直接の規定はなく、『訴状却下命令に即時抗告をするときは、抗告状に却下された訴状を添付しなければならない』として裏からそっと注意喚起がされている(民事訴訟法第五七条)」などは、歴史を知らなければわからない話である。

「江戸時代の裁判は、職権主義、判例法主義、難件決済制、一審制、武断的裁判、刑罰を背景にした厳格な手続進行、民刑手続同一の原則という特徴を有しており、職権主義を支える与力・同心の裁判補助態勢も整っていて、職権主義的及び武断的という点において現代的ではないものの、制度としては完成度の高いものであった」(32頁)。そこに、明治維新後、西洋法、特に、ドイツ法・フランス法が移植され、現代の日本法が形成されていった。もっとも、「身についていない規定は空文化するものである。」(219頁)
「明治民事訴訟法以来、法廷での虚偽陳述に対する道徳が弛緩してしまった」(221頁)など、現代の法律実務における問題点、課題も形成されていった。
民事手続の歴史としては、類書の少ない完成度の高い書物といえる。

林浩靖法律事務所では、歴史的な背景もきちんと押さてた業務を行うように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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