所長ブログ
2014年2月11日 火曜日
[書評]中島肇 原発賠償中間指針の考え方(商事法務)
1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「原発賠償中間指針の考え方」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。
本書の著者は、元裁判官で、現在は、弁護士・原子力損害賠償紛争審査会委員である。原子力損害賠償紛争審査会は、「『当事者による自主的な解決』(原賠法18条1項)に資するための規範」(はしがきⅳ頁)として、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する中間指針」(以下、単に、「中間指針」とする。)を公表しており、中間指針は、既に、第四次追補まで公表されている。そして、本書では、出版の時期との関係で、第二次追補までが資料として収録されている。
本書の「内容は、体系的ではなく、中間指針の文言からは理解しにくい考慮要素を審査会での議論や資料を自分(注:著者のこと)なりに咀嚼して重点的に述べたもの」(はしがきⅲ頁)と述べており、全般的な解説ではないが、中間指針を策定したメンバーである委員自身による解説書であり、その有用性は大きい。中間指針は、「上限ではない」ことを、追補のたびに、原子力損害賠償紛争審査会は明記しているところであるが、実際には、東京電力は、上限のごとく運用するという不当な態度を取り続け、裁判においても、あたかも中間指針の通りに賠償すべきという、中間指針の意味を理解しない主張をし続けており、本書も参考に、かかる主張を退けさせなければならない。
当職は、本書で得て知識も生かして、原発事故被災者のためにさらに頑張る所存ですし、また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
本書の著者は、元裁判官で、現在は、弁護士・原子力損害賠償紛争審査会委員である。原子力損害賠償紛争審査会は、「『当事者による自主的な解決』(原賠法18条1項)に資するための規範」(はしがきⅳ頁)として、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する中間指針」(以下、単に、「中間指針」とする。)を公表しており、中間指針は、既に、第四次追補まで公表されている。そして、本書では、出版の時期との関係で、第二次追補までが資料として収録されている。
本書の「内容は、体系的ではなく、中間指針の文言からは理解しにくい考慮要素を審査会での議論や資料を自分(注:著者のこと)なりに咀嚼して重点的に述べたもの」(はしがきⅲ頁)と述べており、全般的な解説ではないが、中間指針を策定したメンバーである委員自身による解説書であり、その有用性は大きい。中間指針は、「上限ではない」ことを、追補のたびに、原子力損害賠償紛争審査会は明記しているところであるが、実際には、東京電力は、上限のごとく運用するという不当な態度を取り続け、裁判においても、あたかも中間指針の通りに賠償すべきという、中間指針の意味を理解しない主張をし続けており、本書も参考に、かかる主張を退けさせなければならない。
当職は、本書で得て知識も生かして、原発事故被災者のためにさらに頑張る所存ですし、また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
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2014年2月 4日 火曜日
[書評]石井一正 刑事事実認定入門(第2版)(判例タイムズ社)
1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「刑事事実認定入門」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。
本書の著者は、元札幌高等裁判所の長官で、刑事畑を長く歩んだ裁判官である。著者もはしがきで指摘しているが、「刑事裁判における事実認定の重要性や困難性」(はしがきⅳ頁)は、実務に携わる者全員が感じていることだろう。当職は、法科大学院制度が導入される前に弁護士になったので、事実認定を初めて勉強したのは、司法研修所での前期修習であった。しかしながら、良い参考書は正直なかった。法科大学院制度が誕生し、法科大学院で学生に事実認定も教えなくなったため、いろいろな本が出版されるようになった。ただ、事実認定が、どうしても事例判断的な要素が強い分野であることもあり、判例を分析したようなものは多いが、本書のように考え方をまとめた本は少ない。
本書は、証拠構造でまとめているので、例えば、犯人性(犯人と被告人の同一性)の検討方法が、自白のような直接証拠がある場合は、66頁以下、状況証拠で認定しなければならない場合は、119頁以下に分かれているなど、若干使いにくい部分もあるが、基本的な判例はきちんと押さえたうえで、考え方をまとめている本として、有益だろう。法科大学院生だけでなく、実務家にとっても、考え方を押さえるための書籍として有益である。本文141頁の薄い本なので、一気に読めるところもよい。法科大学院生には、ぜひ、最初に読んでほしい書物であるし、勉強した内容をまとめて、情報を補充、整理していくと、いつでも参照できる刑事事実認定の書籍に育つだろう。
林浩靖法律事務所では、刑事事件だけでなく、民事事件についても最良のサービスを提供できるように、常に情報をブラッシュアップしていますので、何かお困りごとがございましたら、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
本書の著者は、元札幌高等裁判所の長官で、刑事畑を長く歩んだ裁判官である。著者もはしがきで指摘しているが、「刑事裁判における事実認定の重要性や困難性」(はしがきⅳ頁)は、実務に携わる者全員が感じていることだろう。当職は、法科大学院制度が導入される前に弁護士になったので、事実認定を初めて勉強したのは、司法研修所での前期修習であった。しかしながら、良い参考書は正直なかった。法科大学院制度が誕生し、法科大学院で学生に事実認定も教えなくなったため、いろいろな本が出版されるようになった。ただ、事実認定が、どうしても事例判断的な要素が強い分野であることもあり、判例を分析したようなものは多いが、本書のように考え方をまとめた本は少ない。
本書は、証拠構造でまとめているので、例えば、犯人性(犯人と被告人の同一性)の検討方法が、自白のような直接証拠がある場合は、66頁以下、状況証拠で認定しなければならない場合は、119頁以下に分かれているなど、若干使いにくい部分もあるが、基本的な判例はきちんと押さえたうえで、考え方をまとめている本として、有益だろう。法科大学院生だけでなく、実務家にとっても、考え方を押さえるための書籍として有益である。本文141頁の薄い本なので、一気に読めるところもよい。法科大学院生には、ぜひ、最初に読んでほしい書物であるし、勉強した内容をまとめて、情報を補充、整理していくと、いつでも参照できる刑事事実認定の書籍に育つだろう。
林浩靖法律事務所では、刑事事件だけでなく、民事事件についても最良のサービスを提供できるように、常に情報をブラッシュアップしていますので、何かお困りごとがございましたら、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
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2014年1月27日 月曜日
[書評]多川俊映 唯識こころの哲学ー唯識三十頌を読む(大法輪閣)
1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「唯識こころの哲学ー唯識三十頌を読む」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。
本書の著者は、以前、書評をした唯識入門(該当する記事はこちら)の著者である興福寺貫主の多川俊映師である。その多川師が、「西暦五世紀ごろのインドに出た世親(ヴァスバンドゥ)という学僧の著作」(39頁)で「唯識教説をわずか三十の詩句で簡潔に示した古来の名著」(2頁)である唯識三十頌の解説をしながら、唯識仏教の内容を説明している本である。そのため、以前、書評した「唯識入門」より、細かい内容が説明されている。
しかしながら、「すべてをこころの要素に還元し、他ならぬわが心の問題として考えようとする唯識仏教の要諦は、いってみれば、私たちというのは、心によって知られたかぎりの世界に住んでいるということ」(182頁)という結論を、臓器移植法の問題(59頁)や環境問題を「心の深いところで自然を対象化しているという(唯識仏教の)指摘」(62頁)と関連づけて説明するなど、現実問題と絡めなが
ら、かつ、「意識は氷山の一角」(59頁)など、ユング心理学の指摘も交えながら論じており、唯識仏教を分かり易く説明している所元であることには変わらない。
司法の世界は、心理学的な成果をうまく活かせていないことは、やはり感じるところであるが、事実認定には、心理学的な成果をうまく活かすことも必要であろう。その意味で考えさせるところのある書物であった。
林浩靖法律事務所では、法律の知識だけではなく、隣接分野についても最良のサービスを提供できるように、常に情報をブラッシュアップしていますので、何かお困りごとがございましたら、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
本書の著者は、以前、書評をした唯識入門(該当する記事はこちら)の著者である興福寺貫主の多川俊映師である。その多川師が、「西暦五世紀ごろのインドに出た世親(ヴァスバンドゥ)という学僧の著作」(39頁)で「唯識教説をわずか三十の詩句で簡潔に示した古来の名著」(2頁)である唯識三十頌の解説をしながら、唯識仏教の内容を説明している本である。そのため、以前、書評した「唯識入門」より、細かい内容が説明されている。
しかしながら、「すべてをこころの要素に還元し、他ならぬわが心の問題として考えようとする唯識仏教の要諦は、いってみれば、私たちというのは、心によって知られたかぎりの世界に住んでいるということ」(182頁)という結論を、臓器移植法の問題(59頁)や環境問題を「心の深いところで自然を対象化しているという(唯識仏教の)指摘」(62頁)と関連づけて説明するなど、現実問題と絡めなが
ら、かつ、「意識は氷山の一角」(59頁)など、ユング心理学の指摘も交えながら論じており、唯識仏教を分かり易く説明している所元であることには変わらない。
司法の世界は、心理学的な成果をうまく活かせていないことは、やはり感じるところであるが、事実認定には、心理学的な成果をうまく活かすことも必要であろう。その意味で考えさせるところのある書物であった。
林浩靖法律事務所では、法律の知識だけではなく、隣接分野についても最良のサービスを提供できるように、常に情報をブラッシュアップしていますので、何かお困りごとがございましたら、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
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2014年1月20日 月曜日
[書評]北村喜宣 改訂版 現代環境法の諸相(放送大学教育振興会)
1冊、書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「改訂版 現代環境法の諸相」です(本記事は書評なので、この後は、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。
本書は、放送大学の講義用の印刷教材として執筆されている本であるから、概ね、大学での半期分程度の講義で行われる内容でまとめているといえ、環境法という分野の基礎の範囲を画するという意味では便利な書物である。ただ、当職が、事件処理上、環境法の内容を確認する為に手許においている大塚直教授の「環境法」(有斐閣)が750頁を超える書籍であるのに対し、本書は本文僅か216頁の書物であり、勿論、環境法の全ての点を網羅している書物ではない。著者自身、本書について、「『環境法総論のようなもの』を描こうとした」(はしがきⅲ頁)と述べている通り、あくまで環境法の総論、即ち、環境基本法をはじめとする環境関係の法律に共通する「考え方」を論じた書物であり、いわゆる各論部分、すなわち、環境関係の個々の法律については、総論を論じるのに必要な限度でしか、述べられていない。
しかしながら、環境法という科目は、環境政策と密接に結びついているものであり、他の法律の勉強とは少し違う面があるところ、その、環境法の考え方は丁寧に説明されており、有益な本であることは間違いない。
また、本書は、放送大学の講義用の印刷教材として執筆されている本であるから、放送大学のテレビチャンネル(東京であれば、デジタル12チャンネル)にて、著者と原島良成熊本大学准教授による講義が放送されており、講義を聞きながら、読むことができるところも、環境法になじんでいない者にはありがたい話だと思う。その意味で、環境法に興味があるが、あまり環境法になじんでいない方に手に取って頂きたい本と言えよう。
当職も、福島第一原発の被災者の問題にかかわらせて頂いており、原子力法も広い意味での環境法の一部なので、本書で得た考え方も生かしながら、これからも、被災者の皆さんのために頑張りたいと思います。また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
本書は、放送大学の講義用の印刷教材として執筆されている本であるから、概ね、大学での半期分程度の講義で行われる内容でまとめているといえ、環境法という分野の基礎の範囲を画するという意味では便利な書物である。ただ、当職が、事件処理上、環境法の内容を確認する為に手許においている大塚直教授の「環境法」(有斐閣)が750頁を超える書籍であるのに対し、本書は本文僅か216頁の書物であり、勿論、環境法の全ての点を網羅している書物ではない。著者自身、本書について、「『環境法総論のようなもの』を描こうとした」(はしがきⅲ頁)と述べている通り、あくまで環境法の総論、即ち、環境基本法をはじめとする環境関係の法律に共通する「考え方」を論じた書物であり、いわゆる各論部分、すなわち、環境関係の個々の法律については、総論を論じるのに必要な限度でしか、述べられていない。
しかしながら、環境法という科目は、環境政策と密接に結びついているものであり、他の法律の勉強とは少し違う面があるところ、その、環境法の考え方は丁寧に説明されており、有益な本であることは間違いない。
また、本書は、放送大学の講義用の印刷教材として執筆されている本であるから、放送大学のテレビチャンネル(東京であれば、デジタル12チャンネル)にて、著者と原島良成熊本大学准教授による講義が放送されており、講義を聞きながら、読むことができるところも、環境法になじんでいない者にはありがたい話だと思う。その意味で、環境法に興味があるが、あまり環境法になじんでいない方に手に取って頂きたい本と言えよう。
当職も、福島第一原発の被災者の問題にかかわらせて頂いており、原子力法も広い意味での環境法の一部なので、本書で得た考え方も生かしながら、これからも、被災者の皆さんのために頑張りたいと思います。また、原発事故以外についての情報も、常にキャッチアップするように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
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2014年1月13日 月曜日
[書評]多川俊映 唯識入門(春秋社)
本年も書評は続けたいと思います。本年の書評の一冊目は、「唯識入門」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。
本書は題名のとおり、仏教の一つの考え方である唯識仏教の入門書で、著者の多川俊映師は、興福寺貫主である。当職が本書を読もうと思ったのは、一つは、「因果ということを非常に重視」(88頁)する仏教に、因果関係が何かということを考えるヒントが何かないかと思ったからであり、もう一つは、日本人は一般に仏教徒と分類されているけれども、当職は仏教のことは何も知らないので、本屋でこの本を見て、読んでみようと考えたことによる。
「唯識仏教は、心の構造として眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識の六つの表層の心と末那識・阿頼耶識の二つの深層の心という八つの心識を考え、それによって私たちの心の実態を解明しようとし」ているもの(32頁)であり、無意識の心、即ち、深層心理というものについて考えさせられる本であった。身近な具体例をあげながら解説されており、唯識仏教の分かり易い入門書だと思う。唯識仏教について、簡単に概要を知りたい方にお勧めできる本である。
因果関係は、損害賠償訴訟や刑事事件で問題になることが多いが、よくわからないということも多いので、因果関係について考えたかったが、その点では、あまり得るとことはなかった。しかし、唯識仏教の本としては分かり易かったので、唯識仏教に興味がある方には、ぜひ読んでほしいと思います。
また、林浩靖法律事務所は、法律以外にも目を配りながら、皆様に満足していただける法的情報を提供するように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
本書は題名のとおり、仏教の一つの考え方である唯識仏教の入門書で、著者の多川俊映師は、興福寺貫主である。当職が本書を読もうと思ったのは、一つは、「因果ということを非常に重視」(88頁)する仏教に、因果関係が何かということを考えるヒントが何かないかと思ったからであり、もう一つは、日本人は一般に仏教徒と分類されているけれども、当職は仏教のことは何も知らないので、本屋でこの本を見て、読んでみようと考えたことによる。
「唯識仏教は、心の構造として眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識の六つの表層の心と末那識・阿頼耶識の二つの深層の心という八つの心識を考え、それによって私たちの心の実態を解明しようとし」ているもの(32頁)であり、無意識の心、即ち、深層心理というものについて考えさせられる本であった。身近な具体例をあげながら解説されており、唯識仏教の分かり易い入門書だと思う。唯識仏教について、簡単に概要を知りたい方にお勧めできる本である。
因果関係は、損害賠償訴訟や刑事事件で問題になることが多いが、よくわからないということも多いので、因果関係について考えたかったが、その点では、あまり得るとことはなかった。しかし、唯識仏教の本としては分かり易かったので、唯識仏教に興味がある方には、ぜひ読んでほしいと思います。
また、林浩靖法律事務所は、法律以外にも目を配りながら、皆様に満足していただける法的情報を提供するように努めていますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。
弁護士 林 浩靖
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