所長ブログ

2017年2月15日 水曜日

[書評]団藤重光 法学の基礎(第2版)(有斐閣)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「法学の基礎(第2版)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、東京大学名誉教授・元最高裁判事の刑事法学者であり、特に、刑法については、現在でも、学説・実務の基礎には団藤名誉教授の見解があるといって良い巨頭である。

その団藤名誉教授の法学全体の概説書であるが、本書の原著は、「『入門』ではなくて『出門』だという批評」(2頁)がなされたという書物である。
確かに、到底、初学者が読んで、理解できる書物とは思えない。
ただ、ある程度、法律の学習が進んだ学者や実務家であれば、本書を読んで得るものがあり、しかも、何度読み直しても新たな発見を得ることができるだろう。最終の改訂がなされたのは、10年前の2007年であり、5年前の2012年に団藤名誉教授は、逝去されたので、一部、現行法に即していないところもあるが、そのことは本書の価値を失わせるものでは全くない。
「社会事情は世界的に刻々と大きく動いていく。われわれは、それを的確に把握して対処していかなければならない。それが法学に従事する者の任務である」(1頁)というのが、本書の結論であるが、そのために現行法へ至る基礎となる考え方や法解釈学を支える学問の概要などを説明している。法哲学、法社会学と法解釈学の関係、西洋哲学史を中心とする基礎となる事項の概説などが述べられている本書は、法の条文が、ただ現在だけの事情で存在しているものではないことを示すとともに、それを支える教養の重要性を考えさせる。
「現代法をいかなる性格のものに形成していくべきかということじたいが、われわれにとって所与ではなく課題」(81頁)なのである。

当職も、法の担い手の一人として、この課題に取り組み続けたいと思う。

林浩靖法律事務所では、基礎的な理論についても常に研鑽を怠らず、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2017年2月 8日 水曜日

[書評]細田衛士・横山彰 環境経済学(有斐閣アルマ)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「環境経済学」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書は、細田衛士慶応義塾大学教授と横山彰中央大学教授の共著である。

当職は、約20年前の大学生のとき、学部生として、本書の共著者の一人である細田教授の環境経済学の講義を履修した。現在、日本最大の環境問題といって良い福島第一原発事故の損害賠償請求訴訟に関わっているが、学生時代から環境問題には関心があったのである。もっとも、細田教授の講義は、現実に発生している環境問題を示しながらではあるが、経済理論、特に応用ミクロ経済学としての理論問題が難しく、大学生だった当職は、単位をとることができなかったのである(言い訳をすれば、司法試験の受験の年で、情報を頭に叩き込めば単位をとれる科目ではなく、理論の理解が必要な科目を受講したことに無謀な面があり、その結果という面があるが。)。

本書は、当職が大学卒業した後に、出版された書物であるが、細田教授の執筆部分には学生時代に聞いた話がまとまっており、学生当時、本書があれば良かったと思わなくはない。ただ、環境問題は、学際的な部分があり、法律問題を考えるに当たっても、環境経済学、環境社会学、生物学などの周辺知識の概略をつかんでおくことは必要である。そこで、本書を読むことにした。

「環境問題とは、自然を顧みない経済活動の結果、人間と自然環境との間に齟齬が生じた状態」(2頁~3頁)と把握した上で、「地域規模のみならず地球規模で起きている環境問題を解決するためには、市場経済の基本に立ち戻って問題の核心を見据えなければならない」(11頁)と指摘する。
そもそも、市場経済による資本主義社会のままで環境問題を解決できるのだろうかという根本的な疑問はあるが、少なくとも、当面は市場経済を前提に対策を考えなければならない。そうである以上、「重要なことは、資源の過剰利用は経済的な背景の中で起きるということの認識であり、同時に資源ストックの適正な管理は、経済的な条件を無視しては行い得ないということのりかいなのである」(140頁)ということを押さえる必要がある。

本書は、環境問題の解決のために経済理論が有効であることを示すもので、環境経済学の概説書としては、よく出来ていると思う。

経済学は、法学の隣接学問の1つであり、その理解は、法学の理解も豊かにしてくれるものといえます。林浩靖法律事務所では、法律に限らず、隣接分野についても常に研鑽を怠らず、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2017年2月 1日 水曜日

[書評]新井章・松村高夫・本多勝一・渡辺春己 「事実」をつかむ-歴史・報道・裁判の場から考える(こうち書房)


1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「『事実』をつかむ-歴史・報道・裁判の場から考える」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者のうちは、本多勝一氏は元朝日新聞記者である著名なジャーナリスト、新井章氏と渡辺春己氏は弁護士、そして、松村高夫は慶応義塾大学名誉教授である。

当職は、約20年前、大学3年生のとき、松村教授の「イギリス社会科学の系譜」という講義を受講した。たしか、夏休みの課題だったと思う。本書を読んでレポートを出すという課題が出された。そのときは、本書の内容が分かったようで分からなかった。当時の当職は、大学生であり、司法試験受験生(この年、初めて司法試験を受験した。択一試験には合格したが、論文試験で不合格だった。)であった。当時の司法試験では法解釈力が試され、事実認定の勉強は、司法研修所で行うという立て付けで制度設計がされていたから、事実認定の問題については、基本的な知識もなかった。

その後、司法修習を経て、弁護士になった後、10年以上が経過した。今になると、「ルポ・裁判・歴史学のいずれも前提としての事実の認定と、その事実に対する評価の二段階に分け判断を下すという同一構造をもっている」(5頁)として、事実認定の在り方を考えようとすることが重要なことであることが、よく分かる。

そして、「裁判の問題点はおおよそ次のような類型化が可能」(125頁)とされた上で、①行政追随の判決、②一般民事事件などにみられるズサンな判決、③刑事裁判にみられる刑事裁判原則(無罪推定と検察官の立証責任など)の無視があげられ、それが現在も変わっていないと思われることに絶望を感じざるを得ない。そうは言っても、技術を磨き、少しでも改善できるように努力を続けることは、弁護士にとって、当然の義務である。

「法律実務家にとっては、裁判所に背景事情を含め多面的に社会的事実を認識させるよう証拠方法を採用させること、証拠の評価、反対尋問の方法、各事件の特殊性や経験則の探究などが重要な役割をもっている。」(281頁)これは、現在でも当てはまると考えるし、弁護士として、常に思い続けなければならないことと思う。

林浩靖法律事務所では、事実認定の技法についても常に研鑽を怠らず、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2017年1月25日 水曜日

[書評]大村敦志 家族法(第3版)(有斐閣)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「家族法(第3版)」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、東京大学教授であり、民法全分野にわたる教科書も書かれている。本書は、「家族法」と題された書籍であるが、相続法分野は含まれていない。その理由として、著者は、「相続法は親族法とは異質の要素を含む」(15頁)ことを挙げている。実際、相続法には、財産法と隣接する部分があり、純粋な身分法学の話とは言えない部分がある。
そして、著者は、「親族法を指して、『(狭義の)家族法』」(15頁)と呼ぶことを提案し、「民法以外の諸法に含まれる規範-さしあたり家族政策法と呼んでおく―を含め家族に関する規範の総体を『広義の家族法』」(15頁)とする。
そのため、本書は、「家族法」という書名ではあるが、その実質は「親族法」の書物であるが、その分析には参考になるところが多い。特に周辺の法律に丁寧に配慮しているところは、新たな見方を与えてくれる。

林浩靖法律事務所では、判例・通説だけでなく、新たな見方にも常に目を配り、お客様に常に満足できる最良のサービスを提供させていただく所存ですので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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2017年1月18日 水曜日

[書評]奥平康弘 治安維持法小史(岩波現代文庫)

1冊書評をしたいと思います。今回、書評をするのは、「治安維持法小史」です(本記事は書評なので、この後は、「です」、「ます」調ではなく、「だ」、「である」調で書きます。)。

本書の著者は、憲法をご専門とする東京大学名誉教授であり、2015年に逝去された。本書は、2006年に文庫化されたものの、原著は1977年の出版であるから、当職がまだ赤ん坊の時出版されている。

著者は、「悪法だという評価を確実に成立させるためには、治安維持法とはなんであったのかという、事実の評価にかんする作業を、大いにおこなう必要がある」(はしがきⅴ頁。なお、傍点は省略。)と指摘する。
1925年に制定され、「制定後約三年たった一九二八(昭和三)年に、緊急勅令という明治憲法に独特な法形式により、大きな改正をうけ」(1頁)、1941年に全面改正された治安維持法は、当初は、日本共産党対策の法律として、その「本質が『結社』取締法にあ」った(68頁)治安維持法が、1930年代後半には、「日本共産党およびその周辺の諸組織の弾圧法たる性格を薄めて、別の性格の法へと変質してい」った(192頁)。その歴史的な背景や、京都学連事件、人民戦線事件、企画院事件、横浜事件といった事件を分析し、なぜ治安維持法が悪法であるのかを明らかにする。
これらの事件の教訓といえる、「人権が侵害されるとき、人権擁護の自由も侵害されるということ」(126頁)、「既成事実のまえで判決のもつ『修正』力は意外に小さいものでしかなかった」(234頁)との指摘は、現在でもあたっていると思う。弁護士として、常に意識をしなければならない点であろう。

そして、「戦後の日本社会は、自らの手で治安維持法体制を解体したわけではなく、また。自らの手で人権侵害責任者の裁きをおこなったわけではない」(288頁)との指摘は、今なお重い指摘である。共謀罪が問題になっている今だからこそ、なお重い指摘になっているといえる。内心を処罰することの危険性を感じる必要があるからである。

林浩靖法律事務所は、現行法に限らず、歴史的な教訓も押さえて業務しておりますので、何かお困りのことがありましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

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