所長ブログ

2013年8月 7日 水曜日

[書評]原子力損害賠償実務研究会編 原子力損害賠償の実務(民事法研究会)

ブログを読んでいただいている方はご存じだと思いますが、当職は、福島第一原発の原発事故の被災者の方の法律相談にも関わらせてもらっています。しかしながら、原子力損害について定めた法律である原子力損害の賠償に関する法律(以下、「原賠法」といいます。)について、コンパクトかつポイントを押さえた書籍はなかなか見つけられず、困っていました。そのようなときに見つけた本でしたので、空き時間に一気に読みました。そこで、本日は、この「原子力損害賠償の実務」の書評をしたいと思います(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

本書は、第2章で、原賠法の規定をコンメンタール式に解説している。原賠法の解説は、省庁再編前の担当部局であった科学技術庁原子力局により書かれたコンメンタールはあるが、この本は、規定を行政側から解説した本であるから、規定に対する批判的な検討はほとんどなく、極論を言えば、行政や原子力事業者の都合を優先した解説がなされていると言ってもよい。これに対して本書は、福島第一原発の原発事故に関連する規定に解説が限られてはいるが、批判的な視点も入れて原賠法を解説しており、使い勝手の良いコンメンタールと言える。さらに、第4章では、いわゆる「中間指針」についても解説され、第5章では、それを業種別に具体的に検討している。

もっとも、この分野は、動きの激しい分野であり、中間指針については、既に追補が第3次追補まで出ているが、この追補部分については、出版の時期の関係から解説されていない。また、一箇所、意味不明な誤記があった(241頁の下から4行目。元の法文から考えて、「として」は余分だろう。)。しかしながら、原子力損害に関する法律問題の基本的な点は、概ね、解説されていると言え、この分野の書物が少ないことも考えれば、法律の規定を批判的に解説している本書は、有益なことは間違いない。

もちろん、専門家として、最新の動きには注意はしているが、本書は、いざというときに戻れる書物ということで、これからも使い込んでいきたいと思う。

そして、この本で得た知識も生かしながら。今後も、震災での被害者の方に少しでもお役にたてるように頑張らせて頂きたいと思います。そして、震災の被害に限らず、法律に関する問題で、お困りのことがありましたら、池袋にある林浩靖法律事務所にご相談いただければ幸いです。

弁護士 林 浩靖

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2013年8月 6日 火曜日

[書評]アーネスト・ゲルナー(加藤節監訳) 民族とナショナリズム(岩波書店)

ブログをお読みになっている方には、いつ本を読んでいるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、興味を持った本は、通勤時間に次々読んでいます。当職が乗る駅は、始発駅なので、いつも座っていけることから、通勤電車の中でも本を読むことができます。そこで、今回読んだ、アーネスト・ゲルナーの「民族とナショナリズム」の書評をしたいと思います(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

今回、この本を読むことにしたのは、尖閣問題やパレスチナ問題などを見ても、現在の社会で大きな影響を与えていることは明らかなものの、その実態はよく分からないナショナリズムとはなんなのかということを知りたかったためである。

英国哲学界の巨人であった著者は、最初に、ナショナリズムを「政治的な単位都民側的な単位が一致していなければならないと主張する一つの政治的原理」(1頁)と暫定的な定義をしたうえで、権力への距離、文化の同一性、教育の機会という3つの要素から、産業社会において、なぜナショナリズムが生じたのかということを解き明かしている。本文は、240頁にしか満たない薄い本であり、そのために若干、予備知識を要求しているところはあるが、高校時代に世界史や政経・倫理をきちんと勉強していれば、内容を理解しながら読むことができると思う。

著者は、最終的に、ナショナリズムを「きわめて特殊な種類の愛国主義であり、実際のところ近代社会でしか優勢とならない特定の社会条件の下でのみ普及し支配的となる愛国主義」(230頁)という結論に至っているが、その理由づけはいろいろな角度からなされており、十分に説得力のあるものであった。

ナショナリズムについて考える際には、必ず読んでおきたい本の一つであることは、間違いないだろう。薄いながらも内容のしっかりした良書だと思う。今後、ナショナリズムが問題になるときは、この本の視点で考えてみたいと思う。それは、教養としてだけではなく、外国人からみれば、日本がどう見えるかという点で、外国人の依頼者の法律相談や外国人との交渉のときにも役立つ話だと思った。

本書は、若干、予備知識を要求する本ではあるが、良書なので、読んで見たいと考える方がいらっしゃれば、本当にうれしく思います。また、当職は、今後も、ご依頼者のお役にたてるように、日々精進しますので、お困りごとがございましたら、ぜひ、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2013年7月31日 水曜日

[書評]佐藤優・井戸まさえ 子どもの教養の育て方(東洋経済新報社)

一冊、書評をしたいと思います(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

当職には、1歳5ヶ月になる息子がいる。そこで、書店で目にしたこの本を手にとった。著者の一人である佐藤優氏は、作家・外務省元主任分析官で、数多くの著書がある。また、もう一人の著者の井戸まさえ氏は、前衆議院議員であるが、お子様が5人いるとのことなので、子どもの育て方のヒントが何かあるのではないかと考えたのである。

本書は著者のお二人の対談集であるが、冒頭の井戸氏の「読書なくして教養は成り立たない」(27頁)という発言は、まさにその通りだと思う。そのために、子どもに、どのように読書の習慣を漬ければよいのかということが問題になるのだが、「重要なのはテレビを見せないこと」(107頁)など、読書の習慣、ひいては、教養を身に着けさせるにはどうした良いかについてのヒントが、たくさん入っている良書であった。

また、後半では、角田光代氏の「八日目の蝉」を題材に、小説の実用的、功利主義的な読み方を教えてくれている点も良い。書名は、「子どもの教養の育て方」であるが、大人が自分の教養を身につけるための方法を考える上でも、役に立つと思う。

教養は、即座に役に立つようなものではないかもしれないが、知識のバックグラウンドという面があるから、どのような仕事についている者にも役立つものと言えるだろう。当職も、子どもにも教養を身に着けさせたいが、自分も教養をきちんと身に着け、それを生かしながら、皆様のお困りごとの法律相談に乗らせて頂ければと思います。

何かお困りごとがありましたら、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所にご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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2013年7月28日 日曜日

原発事故被災者の状況

いつも依頼者の皆様のために全力を尽くしている 林浩靖法律事務所 の弁護士の林です。

本日は、日曜日ですが、原発被災者弁護団のメンバーの先生方と、原発事故の被災地の一つである福島県田村市都路町を訪れ、現地視察をしました。

都路町は、いわゆる平成の大合併の結果、田村市の一部となりましたが、それまでは、都路村であった地域のため、いわゆる都市部ではなく、典型的なヤマの中です。

除染作業が行われている地区も一部ありますが、ヤマの地域ですから、表面をはぎ取られて土地は痛々しく、放射能汚染被害の不可逆性を強く感じました。物事には、万一のことが起きたとき、取り返しがつかないことがあります。確率が低くても、そのような事態が起きたときの問題をどう考えるかを、今、一度、自分の中で問い直してみたいと思います。

原発事故の被災者の方はもちろん、その他のお困りごとを有している方のためにも、弊事務所は、最善を尽くしておりますので、お困りごとがある方は、東京・池袋所在の林浩靖法律事務所までご相談ください。

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2013年7月21日 日曜日

[書評]七尾和晃 琉球検事 封印された証言(東洋経済新報社)

一冊、書評をしたいと思います。(本記事は書評なので、ここからは、「です」「ます」調ではなく、「だ」「である」調で書きます。)。

本書は、「日本と米国、沖縄とアメリカ、大和と琉球。幾重にもからまった桎梏のなかで、司法の独立を守る使命を負わされた琉球検事」(8頁)の目を通じたゴザ事件の対応を中心に、沖縄の戦後史を扱った書物であり、中心となる登場人物は、比嘉良仁元琉球検察検事長、高江洲歳満元琉球検察公安部長検事、瀬長亀次郎元衆議院議員(元沖縄人民党委員長)の3名である。

私事であるが、本書の中心となる登場人物の一人、高江洲歳満先生には、一度、お会いさせて頂いたことがある。9年前の4月、当時、司法修習生だった当職は、さいたま市所在の菊地総合法律事務所の大塚嘉一先生の下に配属されて、弁護修習に入った。この事務所には、その年の3月まで刑事弁護で有名な高野隆先生がいらっしゃったが、高野先生は、ロー・スクールの教員になる関係で、東京へ移ることになり、退所されていた。しかし、まだ、ロー・スクールの担当する講義が始まっておらず、また、残務処理のために、よく事務所へ来られていた。そのようなときに、大塚先生から、「高野の刑事弁護も見てみたい?」(大塚先生と高野先生は学生時代からの同級生で、お互い呼び捨てで呼んでおられた)と聞かれ、当時修習生だった当職は見たいと希望した。ただ、高野先生はロー・スクールの講義準備のため、やっている事件を減らしておられたから、3ヶ月の修習期間中に見ることができそうなのは、当時、高野先生が、沖縄の高江洲歳満先生と一緒に行っていた、沖縄の米兵強制わいせつ事件しかなかった。そこで、この事件を見せてもらうことになり、高野先生と一緒に那覇地裁に行った際、高江洲先生とお会いして、公判の様子を見せてもらうだけでなく、終わったあとで、ステーキまでごちそうになった。温和な印象を受け、このときは、高江洲先生が、戦後の激動期の中で、責任を背負って仕事をされていたことなど、全く知らなかった。

高江洲先生は、事実を非常に大切にされていたが、それは、沖縄で「アメリカ世」(あめりかゆー)と呼ばれる米国統治期に経験された琉球検事としての経験が、そうさせている一面でもあるのかと思う。事実の大切さを理解していない法曹関係者は、さすがにいないとは思うが、日本流の訴訟方法は、「構成要件だけに事実を絞り込んでその範囲だけで主張と立証を行う」(54頁)という面があることは否定できない。他方、米国流の訴訟方法は、「すべての事実を審理し、その中から法的に意味のあるものを見つけ出すべき」(54頁)とするものであり、琉球検事として、米国流の訴訟方法を取り入れて、主張、立証を組み立てざるを得なかった経験が、高江洲先生に周辺事実も、きちんと扱う習慣をつけさせたのではないかと思う。

もちろん、日本流の訴訟方法がすべて悪いというわけではない。米国のようなあっさりと起訴して、後は裁判所に判断してもらおうとし、その結果、無罪判決になることも多い方法より、日本のようにしっかり捜査した上で、有罪と思われるものだけを起訴しようという方法の方が、罪を犯していない者は、早く刑事手続から外れることが多い以上、負担が少ないともいえ、日本流の方法に良い面もある。しかし、逆に、「しっかり捜査しているだろう」という思い込みが、冤罪事件を作っている面もあり、物事には良い面もあれば悪い面もある以上、バランスを考えながら、制度設計していくよりないのである。

本書は、本来は、沖縄の戦後史を扱う書物であり、特に、沖縄人の本土に対する潜在的な無意識や米国統治下での苦悩を中心に描かれ、今に続く基地問題などを考えるうえでも、参考になる書物であるから、機会があれば、ぜひ読んでいただきたいと思う。

東京・池袋所在の 林浩靖法律事務所 では、民事事件に限らず、刑事事件も取り扱っておりますし、日本流の方法の良い面はきちんと押さえながら、必要に応じて、他の考え方ができないかを常に考え、ご依頼者様の正当な利益をきちんと擁護できるように努めておりますので、お困りごとの際は、ぜひ、ご相談ください。

弁護士 林 浩靖

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